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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『ほかに怪しいものも居らぬ故』
『冗戯仰しゃっちゃいけませんぜ。娘は宿元へ引き取ってからもう半月にもなるんだ。身を退いた後々の失くなり物まで、罪を負わせられて堪るものか。――だが、折角お出でなすったのに、ただお帰し申しちゃ、こっ方も気色がわるい。どうか、二階へ上って調べておくんなさい。娘は、あれからこの二階から戸外へ出したことはねえんですから』
『然らば、念のために』
弥七郎が、起ちかけると、
『旦那』
吉五郎も起って、その袂をつかんだ。
『――上ってお調べになるのはいいが、もし、娘の所為でないと分った時は、何うしてくれますか』
『何うと申して……べつに……』
『旦那もお侍だろうが、此っ方も、江戸の町人だ。お邸へ対して済まねえと思えばこそ、いまだに、二階の一間へ抛り込んで窮命させてあるものを、その上にも、罪を着せられちゃあ、親として黙ってお帰し申すわけにはゆきませんぜ。あっしは怺えもするが、そこらに居る奴が、どんな真似をするか存じませんから、そいつあ念のために、おふくみなすっておくんなさい』
梯子段に手をかけて、弥七郎は二階を見上げたが、成程、そこは座敷牢のように薄暗く陰気に閉まっている。