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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
内蔵助との知縁は、その国学の講義に列した折と、和歌の添削などを時折消息でしてもらった交渉などから初まっていた。――だが、江戸でその人に出会おうなどとは、まったく想像していない事だった。
『かような手狭での……』
石町三丁目の浪宅へ連れて、茶など出して、努めて、話題を和歌とか国学者のうわさなどへ誘っていた。
『京では、だいぶ豪奢に承わっていたが、これは又、簡素……』
と、春満は、壁や長押を見てつぶやく。
『そうそう、こちらへお越しなされてから、中島五郎作にお会いなされましたの』
『五郎作。オオ、あの霊岸島の富豪でござるか。京で、お紹介わせを得たことがござりましたな。しかし、かように零落の身ゆえ、つい暇もなし、先は大家、訪れはさし控えておりまするが』
『その五郎作から、あなたが江戸表へ移ったというお噂を、つい先頃、聞いたばかりでした』
『ほ……。先では知りましたか』
『知る知らぬに関わらず、御出府の儀は、強く世間にひびいて居ります。何やら、翡翠が梢を更えて、凝と、魚の姿を見ておる姿のように……』
『ははあ、誰をな?』
『大石殿を』
『判じ物か。やれやれ、種々に揣摩臆測されることじゃ。