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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

大きな建築を楽しんでいる大長者が棟上げを見ているように、その眼元は和んでいた。

『すんだか』

静に、側の者に問う。

連判の起誓文を巻いて納めていた原惣右衛門が、

『すみました』

と、答える。

『では、次に、これをお示しください』

と、今度のは、内蔵助が自身のふところから一通を取出した。

人々心得之覚え書

とある。

討入日の集り場所。また、刻限の事。

上野介の首を揚げた場合の扱いよう。

泉岳寺へゆく途中の心得。

子息左兵衛佐の首をあげた場合の注意。

味方の傷負について。

相図の小笛吹継のこと。

総人数引取りの折の銅鑼の打ち方。

退口は裏門と一決のこと。

追手討、又は上杉勢などと、衝突のある折に処する態度。

――等々々、実に細々と認めてあるのだった。

『さすがは盟主のお心くばり、痒いところに手がとどくような』

と、人々は、諳誦したり、それを筆写して肌身にふかく仕舞う者もあった。

――と、堀部弥兵衛が、

『大夫』

と、四、五名先のほうから、此っ方をのぞいて、

『これで万端手筈はととのうたというものでござるが、唯今までのお示しのうちでは、ただ一条洩れているものがあるように存ぜらるるが』