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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『やあ、お出でか、どうぞ』

『ちと急ぐ。そちらへ廻ろう』

源吾は、横の木戸を開けて、裏へ入って来た。藪越しに、薄氷の張っている狭い川が見える。

『堀部――』

顔を見ると、すぐ、声をひそめて、

『よろこべ、吉報をつかんで来た』

『えっ、何だ』

『きょうも、例の四方庵へ茶の稽古に行ったのだ。指南をうけて、帰りがけ、この次の稽古には、六日の朝がた参ります――と、こう何気なく云ったのだ』

『ふム』

『すると、宗※(「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34)が、ことばの下に、イヤ、六日は困ると云う。六日には吉良殿に茶の朝会があって、それへ参る予定になっておるから、余の日にして欲しいと云うのだ』

『しめた』

安兵衛は思わずさけんだ。

寝ても醒めても、聞き出したいと願っていた事はそれだ。吉良上野介がたしかに邸にいるという日の確証をつかむ事だった。――六日に茶の朝会をやるとすれば、五日の晩には、必ず邸にいることは疑う余地もない。

『じゃあ、すぐにこの由を、内蔵助殿の耳へ』

『む。――それも急ぐが、五日とすれば、もう明日、あさって。ここからも手配を』

『お、いつでも』