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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

いつの間にか燈火の来ているこの部屋の天井には、もう来客の声や、起居の物音などが陽気にひびいている。

『ホ……だいぶ見えたな』

眼鏡を下に――そして天井を仰いでニコニコと笑っていると、彼の老妻が、次の間の箪笥の前から、

『おじい様、お召物は』

『これでいいのじゃ。……どれ』

と、炬燵を起って、

『国表の者や、会うよすがもない身寄共へは、それぞれへ、一筆ずつ認めて置いた。わしの出た後で飛脚してくれいの』

『かしこまりました』

『二階への膳の用意は』

『いつでもよろしゅうございます』

『ご苦労だった。――この雪の日を、勝手元の立ち働き、寒かったろう。思えば、おぬしとの一つ暮しも四十年からになる。きょうが、おぬしの手になる晩飯の食べ納めじゃ。――長いあいだの世話だったのう』

と――その時、小娘が、

『おじい様、石町の垣見佐内様と、仙北十庵様が』

『む。お出でたか』

弥兵衛はずっと玄関へ出て行った。二人の客が雪合羽を脱いでいる。垣見佐内とは大石内蔵助のことであり、仙北十庵とは小野寺十内の変名である。

『おう』

『おお……』

常の親しみでする目礼と目礼も、今宵はお互いが粛然とした気持を受ける。