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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『それは面白い。……して、今出されている冠附の上の句は』
『――何のその。と云うのがきのう宗匠から廻って参りましたが、どうもよい下句が附きませぬ』
『それなら、あの人に附けてもらえ』
と、源五右衛門が、大高源吾のほうへ眼をさし向けると、亭主は早速、硯箱と料紙をそっちへ向けてにじり寄って行った。
『なに……冠句の下句を附けてくれいと。よし』
大高源吾は、すぐ筆を取って「何のその」と云う下へ、
「岩をもとおす桑の弓」
と書いて渡した。
杯をふくんだり蕎麦を食べている各※(二の字点、1-2-22)の眼が、黙ってそれを読んでいた。茶屋のおやじは訳もわからずに面白がって、階下へ降りて行った。
もう丑刻(午前二時)近いだろう。白粉の女の住む岡場所の路地の灯さえ消えていた。ぞろぞろと、七、八人が外へ出ると、亀田屋では待っていたように戸を卸した。
『では――』
『では、後刻――』
辻から二組にわかれて散った。
大高、片岡などの三、四名は、そこからはもう急ぎ足で、本所林町へ、堀部安兵衛の浪宅へ馳せつけた。
(来ているな!)
頼もしい気持で胸がいっぱいになる。安兵衛の家にも、宵から討入りの祝宴があり、やがて、それの片づく頃には、矢倉に集まった人々や、その他、散々に今宵を待っていた輩が後から後からとここへ来て落ち合っていた。