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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
掛矢を揮って、玄関の大戸が見事に打ち破られるのを正面に立って眺めていたが、その時、門番小屋から、小者らしい男の影が、鼬のように樹蔭へ走った。
『おのれっ』
誰かがすぐ見つけて追い捲くして行った。――斬るなッ! と云う注意は、内蔵助の脣から走ったものだった。縛り上げた門番は、すぐ番小屋の柱にしばり附けられた。
――何処かで、
『火事っ、火事っ!』
と叫ぶ声が走る。敵か味方か、もう声ではけじめがつかなかった。
ここの物音以上の物音が、裏門のほうからも時を合せて震い起っていた。東西三十間、南北二十余間の塀にかこまれている吉良家の邸は、一瞬の間に、地殻も裂けるような鳴動と旋風の中に置かれていた。
牡丹の袖
――表門から雪崩れこめば、玄関の間、突き当って書院があり、次に納戸、奥に幾間かの居間がある。
上野介の子息左兵衛佐の住居はそこであった。
裏門から躍り入ると、上野介の隠居所が近い。左兵衛佐の住居と隠居所とは、中庭をつなぐ奥廊下で聯絡されているのだった。
屋根すら持ち上がるのではないかと疑われるほど、グワラグワラと瓦が落ちてくる。板屋根の部分や大廂は、天魔のおどるような響きが駈けていた。