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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

さだめし、栄華三昧の貪慾なお方と思われているだろうに、……何という不運なお方だろう。しかし是非もない事だ』

清水一学は、いつも独りつぶやきながら、非番となると独り酒を酌んで、

『おれなぞは、鬱々すれば、こうして酒をのんで、ごろりと手枕になれるから、まだ有難いが……』

何かにつけ、主人思いの彼は、上野介の寂しさを思いやるのだった。

まだ十四歳のとんぼ頭でいた頃に、三河国横須賀村の草ふかい百姓家から拾い出されて、一人前の侍にまで育て上げられた恩義――と云うよりは上野介の多年の情愛に対して、一学は、今の主人の孤独の寂寥や、暗い日々の気持が朝夕自分の胸へひしひしと映って、或る時は、自分の肉体のように余りに苦しくて、酒の力で眠る夜も多かった。

十四日の昼から宵までは、ただ忙しいうちに暮れたのだった。茶会が終って、客の見送りや、道具の蔵納れなどを済ますと、もう雪の大戸を閉め廻る頃になっていた。

風呂をいただいて、一学が、長屋へ帰って来たのはもう十時の頃だった。

それから寝酒の一酌を傾けていると、

『清水、飲っているな。――鼻がきくだろう、嗅ぎつけて来たぞ』

日頃、ひそかに誓い合っている刎頸の友、木村丈八が後から入って来た。