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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『――あっッ』

勘六は、築山の崖から下の泉水へ、足を踏み辷らせて墜ち込んだ。

薄氷を割って、勘六は腰まで水の中に浸っていた――萠黄股引に夜討草鞋の片足を高く宙に揚げて。

一学は振り向きもしない。

(上野介様は。左兵衛佐様は)

彼の血相のうちには、それしか無かった。ともすると、踏み辷る雪を跳んで、築山の西から広庭へ駈け下りた。

すると、その影へ追い重なって、

『一学、待てっ。浅野家浪人、神崎与五郎』

名乗りかける声がしたかと思うと、びゅッと、一薙ぎに後を払った太刀が、与五郎の鎖股引を打って、カチッと石を斬ったような光を発した。

『しまったっ』

与五郎は、大地へ左の手をついて、迅い敵の影を見送った。股か、膝のあたりに、薄傷を負ったのである。

それと見て、近くにいた矢頭右衛門七、早水藤左衛門、間十次郎の面々が、

(われこそ!)

と、一学の見事な武者ぶりの影を、雪煙りを立てて追いかけて行った。

足軽吉右衛門

勿論それは、表門組の襲撃と、時を合せて、一斉に起した行動であった。

吉良邸の搦手――裏門口へかかった二十四名の一隊は、大石主税を主将として、吉田忠左衛門、小野寺十内の二老人がそれを援けて、副将という格である。