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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

と、すずやかな弁舌で事も無げに告げてしまう。

『何!』

綱吉は、耳をうたがうように云った。湯あがりの血を、いっぱいに顔へのぼせて、

『意趣喧嘩をして、高家を斬ったというか。馬鹿なっ、何というたわけ者だ。しかも、勅使登城の目前に不埓至極、但馬を呼べっ』

『はっ』

近習が走り出ると、すぐ老中の秋元但馬守が、愴惶として、そこへ来て平伏する。

但馬守は、はっと思った儘、顔を上げ得なかった。綱吉の眉を仰いだだけで、その怒気のつよさに、胸を打たれた。

勅使登城の刻限は、すでに直ぐと迫っているのである。各※(二の字点、1-2-22)が互いに、

(困った!)

という真っ暗な当惑を唇にむすんで黙りあっていた。

『言語道断な内匠頭の振舞、但馬、疾く糺明せい』

『はっ』

『御三卿に対しては、一応、本日の勅答の儀、延期いたしたものか否か、お伺い致してみい』

『承知仕りました』

『饗応役、すぐ誰かに、代りを申しつけい』

『万端、取り急いで計らいます』

『はやく運べっ。――出羽も』

『はっ』

大廊下では、茶坊主たちが、血を拭き廻ったり、水で浄めたり、塩を掃いたりしていた。暴風の去った一瞬の後は、誰の面にも、何か考え事が絡んでいて、事件の起った前よりも遙かに、静粛な気が流れていた。