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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
惜しいことをと、舌打をしたが、もうどこへ隠れこんだか、姿は見えない。
『――居ないか』
『――居ないか』
『隠居は居ないか』
間十次郎、大高源吾、倉橋伝助などが、そのそばを通りながら、口々に云ってゆく。――
奥口の杉戸の前で、近松勘六が、吉良方の附人鳥井利右衛門と闘っていた。間、大高などが、駈け寄ると、
『助太刀無用っ』
と断って、踏ん込み踏ん込み、利右衛門を追いつめて行ったが、敵わじと思ったか、利右衛門は、中庭へ飛んで逃げる。
『返せっ』
追い迫って、斬りかけた勢いが余って、勘六は、中庭の池の中へ飛び込んでしまった。
引っ返して、利右衛門が一太刀下せば、勘六の命はどうなったかわからない。
だが――利右衛門は、もうあわてていたのである。庭樹へすがりついて、塀のみねへ足を伸ばした。
びゅるんッ――
座敷の中から半弓の矢うなりが走って、利右衛門の背へ深く刺さった。勘六が這い上って来た池の中へ、入れ代りに、利右衛門の死体がもんどり打って落ちてくる。
後になる敵ほど手強いのが残っていた。榊原平右衛門、大須賀次郎右衛門、山吉新八など、上杉家からさし廻されてある付人十一名の剣客のうち、大半は善戦して斬り死にした。