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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
と、正直に述懐している。
主税は、穴へ入ってゆくとすぐ、
『しめた』
と、中でさけんだ。
勿論、十郎左も、岡右衛門も、すぐ後からつづいていた。足に触れたのは、冷たい板廊下だったが、その向うに、何処からも絶対に察知できない三つの部屋があった。
その一つの部屋に、絢爛な夜具が敷いてあり、枕頭の燭台も、あたりのものの気はいも、何となく貴人の空気と、艶めいた後閨の匂いをただよわせている。いう迄もなく、こここそ、上野介の寝所でなくてはならない。
――だが、消えている蘭燈のあたりに、蒔絵の煙草盆が覆っていて、隅に、女性の脱ぎすてた衣が冷たく乱れているほか、三つの部屋にも、その蒲団のうちにも、人はいなかった。
衣桁の蔭
主税は、夜具へ手を入れてみて、
『まだ、あたたかいぞ』
と、呟いた。
『――開いている! 裏が』
と、岡右衛門が同時に云った。
『さてはまだ、先に、抜け道――が』
と、二人はすぐ裏へ急ぐ。
磯貝十郎左衛門は、念のため、後にのこって、そこの天井や、ふくろ戸棚などを突き廻っていた。寝所の次の部屋には、片隅に、蒔絵の衣桁がみえ、それに、青金摺の裲襠と、褪紅色の小袖が掛けてあった。