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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
この七月には、将軍家から見舞の上使として三宅備前守を遣わされた程、一時は重態にもおち入ったものである。
兵部は枕元に坐って、
(そんなお気の弱いことで、何う遊ばすか。何事もこの爺めにおまかせあれ)
きつい言葉の中に情味をこめて云う。藩祖上杉謙信の遺言だの、聖賢の言葉などもひいて励ますのだった。
けれど、弾正大弼の眼から見ると、そういう千坂兵部の髪の毛が、この一年ほどで真っ白になっていた。
『爺に……爺に……済まぬ』
今もふと、寝所のうちで弾正大弼は眼をさまして、すぐそう思った。
寝殿の大廂から、どっと雪が落ちたひびきに眼がさめたのである。――はっと、身を起して、部屋のうちを見ると、大火鉢からは白い湯気が淡くのぼっていた。宿直の侍が二人、同じように首を垂れたまま、片隅にきちんと坐ったまま居眠っている。
『何刻じゃ』
呟くように云うと、
『はっ……』
と、首を上げた宿直が、あたりを見まわして、
『まだ……七刻……頃かと思います』
『夜明けが待たれるのう』
『また、胸がお痛みでございまするか、典医を召しましょうか』
『いや……』
枕の上で、かぶりを振った時、ばたばたと迅い跫音が、廊下から次の控えの間へ入った。