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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

この上は、御仕置仰せつけ賜わるより他に、お詫のことばもござりませぬ』

伝八郎は、それから二言三言、誘ってみたが、内匠頭は、上野介の行為や経緯などには一言も触れないのである。殿中禁犯の結果は、切腹断絶という一途に止まっていることを知って、もう、うごかない運命の座にぴたりと坐っている容子が、静かなことばの裡にはっきりと、相手の胸へ沁みてくる。

伝八郎は、万一の証拠になど、用意してきた物が恥かしい気がした。――だが、こうありたいと他人事ながら念じていたことでもあった。少しも取り紊した容子もなく、こういう心境になり得ている内匠頭を見たのは、せめてもの彼の心やすさであった。

『では、言い分は何もないと申すか』

『されば。――ただ一つ、お伺い申したい儀がござります』

『何か』

『相手方の上野介は、浅疵でござりましょうや、それとも……』

『うむ、その儀であるか』

伝八郎は、顎をひいて、凝と、内匠頭の眸を見た。最前からも、屏風の内で、同室上野介の方の様子を、全神経で知ろうとしていたのではあるまいか。伝八郎はそう思い遣って、

『さよう、傷は二ヵ所、浅傷ではあるが、真額の一太刀、老年のこと故、養生は覚束なかろう』