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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

群集の間から時折、浪士たちの縁故の者が駈け出して、手を取り合ったり、欣びの涙にくれたりしていた。仲間の人々も、路傍の人々も、そういう光景を見るたびに、どういう知合かわからないのであるが、自分たちの身へ直かに迫って来ることのように、熱いものが、胸から眼頭へ突きあげて来るのであった。

『鉄砲洲――』

誰ともなく、こう呟くと、浪士たちの行列は一度、ぴたとそこで足を止めた。旧浅野家の上屋敷の門が思いがけなくも見えたのである。

時の流れが、はっきりと胸へ映ってくる。もうその邸内には浅野内匠頭も過去の人だし、その君を中心として生きていた多くの藩臣と家族もみな、星霜の移りに乗って、すべてがこの門とは遠い彼方へ相を没していた。

そのうちから、わずか四十六名だけが、ゆくりなくも今、大望を仕遂げて、その報告をなすべく亡君の菩提寺へ引揚げる途中で――ふたたびこの門前を通ったのである。内蔵助は、憮然とながめて過ぎた。誰も彼も、さまざまな憶い出を、その門へ寄せながら通って行った。

路傍の男

『――十郎左、十郎左』

金杉橋まで来た時である。ふいにこう内蔵助が呼んで、後からつづく人たちの頭の上を振向いた。