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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
もう庭陰は、寒々と暮れかけて来て、木洩れ陽の夕陽も血かと匂う。
伝右衛門は、こめかみがズキズキして来て、もう自分が悪鬼か人間かわからなくなって来た。彼は、逝く人々の遺品や脱いだ衣服を、各※(二の字点、1-2-22)に名札をつけ、番号をつけ、やがて遺族へ届ける日の為に、部屋の隅へ積み重ねていたのである。
そのうちに、ふと覚えのある――磯貝十郎左の衣服があった。彼が手をかける迄もなく、自分できちんと畳み附けて逝ったらしい。古い帯も、持物も、すべてが几帳面に、その上に乗せてあった。
『……若かったなあ』
深い息して思わず呟いた。ひたと、着物を取上げて横顔へ押し当てると、まだ仄かに若い十郎左の温みがあるようにすら思えた。すると、その袂の中から、何か落ちた。
『……?』
伝右衛門は手に取って、凝と見つめた。それは古代紫の縮緬の小布で、何か小さなものが包んである。
何気なく開けてみると、琴の爪が出た。――深い紫の布の中から、ぽつんと、琴の爪が一つ。
『……あ。もしやこの琴爪の主は』
伝右衛門は、いつか藩邸の附近で見失った一人の女性を眼にうかべた。惜しい! と今になって思い出してみる。