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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『御番士に承わる!』

『御開門っ、御開門っ』

『承われば、御城内に於て、刃傷があった由でござるが、何人が禁犯いたしましたか』

『相手方は、誰でござるかっ』

『お教えねがいたいっ』

『吾々共、主人の安危を、一刻もはやく承知仕りたいのでござる』

『武士の心情、お酌みとりないか』

『御番衆っ』

発狂したような怒号であった。

しまいには、

『馬鹿っ』

と罵しる者もあったが、それでも、万一の騒擾を怖れてか、門扉は、固く閉じたまま、開きもしなければ、答えもしないのである。

やむなく、長柄門へ行ってみると、そこも閉鎖されているし、鍮※門も、同様だった。

流言が飛ぶ、臆測が伝わる。不安は真っ黒な渦を描いて、声の暴風が城内にまで届いた。

『捨て置いては――』

と、目付役の鈴木五右衛門が、大手門の上に、突っ立ちあがって、

『鎮まれい! 鎮まれい! 殿中にての喧嘩は、浅野内匠頭、吉良上野介の両名なるが、双方とも、生命には別条なし――。唯今、お調べ中であるっ。鎮まれいっ』

白扇を振って、必死と、呶鳴ってみたが、海嘯に向って、声を嗄らしているようなものであった。

『駄目だ』

と見て、今度は、作事場にいいつけて、大慌てに、杉板数枚を削らせる。