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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

第五、夫人の立退き。

次にあるものは離散である。主を失い、禄に離れ、行く的もつかない当惑の裡に、一夜にすべての処理をしなければならない――しかも取り乱して世の笑いぐさにならないような武士的な秩序の中に。

茲に、困った事は、安井彦右衛門と藤井又左衛門の両家老である。一藩の上席でもあり、年長でもあるから、当然、真っ先に立って万端の指揮に任じなければならない立場にあるのに、二人共、もう自分一身の事のみ案じているらしく、うろうろと、足も地につかない様子で、まるで、物の役に立たない。

夫人ですら、凛々しく、奥仕えの腰元たちを指図したり、用人達へ心得を諭したり、自身は、良人の居間を片づけたりして、心の処理を保っているのに――。

『何という家老共だ』

憤然と、神崎与五郎は、呟いていた。

すると、奥田孫太夫に、村松喜兵衛の二老人が、

『源五は、何うした』

足早に来て、訊ねた。

『片岡は、今し方、後を頼むぞと云って出て行きました』

『ム。……お見届けに』

『そうです』

『では――誰がよいか。原惣右衛門は』

『居りましょう』

『呼んでくれ』

『原っ』

与五郎が、廊下に立って呼ぶと、

『おうっ』