轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『……御大儀』
微かに、一言洩らして、内匠頭は、外へ出た。
『お持物、式服を、頂戴する』
『…………』
黙然と、うなずいて、彼はまだ着た儘であった大紋を脱ぎ、烏帽子、鼻紙、小さ刀、扇子など、すべてを揃えて、田村家の家臣に渡した。
小袖一重である。
囲いは、まるで罪囚の牢舎にひとしい。隅には便所までついているし、襖の外には、番人達のきびしい気勢がするのだった。
間もなく、膳が出る。
最後の箸を取って、湯漬をかろく三膳食べた。高窓には、もう夕星が見え、辺りには暮色が立ちこめてきた。
箸にかける白い飯粒も、軒端の星も、すべてが、終りのものである。内匠頭は、今日の朝と夕べとが、百年の隔たりがあるように思えた。一瞬の後には消えてゆくと極まった身というものは、思いの他、心やすい気がするのであったが、ふと、思いを妻の上に馳せ、臣下の者の誰彼にめぐらすと、卒然と、五体が涙に溺れる気がした。
(済まない!)
という気もち。
(ゆるせ)
と心で掌をあわせる程な気もち。
そして、密かに自らを慰めるものは、
(あの妻だ、あの家来達だ。わかってくれるに違いない!)
という事であった。