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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
……すぐ死骸が見つけられて、お吉とわかると……それにつれて、下手人も」すこしもじっとしていられないような彼の眼つきだった。
「まずいぞ」つぶやくと、帯をしめ直して、家の外へ駈けだした。
「人が集まってからじゃあ間にあわねえ。誰も知らねえうちに、お吉の死骸を……そうだ死骸さえかくしてしまえば」そしてふたたび、柳島のほうへ駈けて行ったが、その時、彼のうしろから、赫々と大きな太陽の光が、下野の山々を朱にそめてかがやき出していた。
「……しまった、夜が明けてしまった……。ええ、どうなるものか」太っ腹をきめて、平次郎はなお先へ急いだ。もう、伽藍は暁のさえざえした光の中に浮き出していた。ちらほらと、廻廊や広庭には人影もあるいていた。新しい御堂の大扉はすでに開かれて、内陣の壇には、先刻の僧たちが、仏具や帳や蓮華や香台などをせわしげに飾っていた。
「……はてな……この辺だったが……たしかに、この角の欄干から」平次郎は、自分で殺した女房の死骸を、血眼でさがしていたが、死骸はもうそこに見あたらなかった。
二
「こいつあ、いけねえ」彼は、自分の危急を感じた。
お吉の死骸を、他人の手に持って行かれたとすると――平次郎の身に嫌疑のかかってくるのは当然である。