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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
慈円がいうと、
「かしこまりました」衛門は、やがて、高盆に白紙を敷き、その上に、紅白の花形をした捻頭や餅餤とよぶ菓子をたくさんに盛ってきて、
「よい和子、僧正さまの賜わり物、召し上がれ」と、十八公麿にすすめた。そして、範綱には、古雅な器に汲んだ緑色の飲みものを供えた。
器からのぼる香りに、範綱は、渇をおぼえて、喫してみようかと思ったが、どうして飲む物かがわからなかった。
青蓮院を訪れると、時々、こういう目馴れない食味や、什器を見せられて、僧正の知識に驚かされるのであった。
「ぶしつけなことをうかがいまするが、この、緑いろの湯は、何というものでございますか。――よい香りがいたしますが」範綱が、問うと、僧正はわらって、
「茶というものだ」と、教えた。
「ははあ」これも唐から舶載してきたものにちがいないと範綱は器を手にとって、
「このまま、いただくのでございますか」
「そうじゃ」
「頂戴いたしまする」辞儀をして、範綱はひとくち、口へ含んで、
(苦い……)と思ったが、かろい甘味が、舌頭にわいてくると、何か、爽やかな気分をおぼえた。
「どうじゃ、味は」
「けっこうに存じまする」