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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「うまくは、なかろう」

(はい)ともいえないので、範綱は、なにか、爽やかになると答えた。慈円は笑いながら、

「近ごろ、仏書と共に、わずかばかり手に入れたので、試みておるが、なかなか捨てがたい風味がある。聞けば、茶の木の胚子は、夙くから舶載されて、日本にも来ているそうな。どんな花か、花が見たいと思う……」

などと、かたり出で、中華では魏晋のころから紳士のあいだで愛飲されだして、唐の陸羽は、茶経という書物さえあらわしている。また、鬱気を散じるによく、血滞を解くによろしい。医家でも、用いているし、栽培もすすんでいる。日本でもぜひ胚子を植えて、上下の民衆に、用いさせてみたいものだ――などと若い知識をもつ僧正の話はなかなか該博で、経世的であった。

ことにまた、慈円は、僧院の奥ふかい所にいるが、政治にも、社会のうごきにも、なかなか達眼があって、時事にも、通じている。それとなく、世間ばなしのようにする話のうちには、熱があった。

「それについて、今日、折入って、僧正にお願いの儀があって、うかがいましたが」と、範綱は、やっと話のすきを見つけて、いいだした。

十八公麿をつれてきたことや、衣服の改まって見えることや、座談のあいだに、慈円も、今日の彼の訪問が、いつもの和歌の遊びや、閑談でないことは、察していた。