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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
都は最もひどかった。官では、施薬院をひらいて、薬師だの上達部だのが、薬を施したり、また諸寺院で悪病神を追い退ける祈祷などをして、民戸の各戸口へ、赤い護符などを貼りつけてしまったけれど、旱にこぼれ雨ほどのききめもない。
犬さえ骨ばかりになって、ひょろひょろあるいている。町には、行路病者の死骸が、乾物みたいにからからになって捨てられてあったり、まだ息のある病人の着物を剥いで盗んでゆく非道な人間だのが横行していた。
突然、召状があって、範宴は叡山を下り、御所へ行くあいだの辻々で、そういう酸鼻なものを、いくつも目撃した。
(ああ、たれかこの苦患を救うべき)若い範宴のちかいは、心の底にたぎってきた。
二
なんのお召しであろうか。
庁の中務省へゆくまでは範宴にも分らなかったが、出頭してみると、意外にも、奏聞によって、範宴を少僧都の位に任じ、東山の聖光院門跡に補せらる――というお沙汰であった。叡山では、またしても、
「あれが、少僧都に?」と、わざとらしく囁いたり、
「二十五歳で、聖光院の門跡とは、破格なことだ。……やはり引き人がよいか、門閥がなくては、出世がおそい」などと羨望しあった。