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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「さすがは、前関白の聟取、たいそうな調度じゃわえ」

「お式は、西洞院のほうでなさるのか」

「そうらしいて」

「お道具などは、ともかく、あの花のような末の姫を、わがものにする若法師めは、いったい、何という果報者だ」

「法師は、木の端けらというに」

「ああ、俺も、木の端になりたい」巷の人々は、西洞院へゆく荷物の通るたびに、羨望の眼を辻から送っていた。

「もし、ちょっとお訊ね申すが……」と、その人群へ、錫杖を止めた山伏がある。久しぶりに、峰入りから都へもどってきたものとみえ、山伏は、髯をのばし、皮膚は、松の皮みたいに赭黒かった。

「はい、なんですか」一人の凡下が、剽軽にいう。

山伏は、するどい眼で、今通った婚儀の荷を振りかえりながら、

「何か、めでたい儀式があるというが、その聟殿は、何者でござるか」

「まあ、聞きなさい」

凡下は、手振りをして、

「九条様も、物好みでいらっしゃる。七人もご息女のあるうちでも、眼の中へ入れてしまいたいほど、可愛くてならない末姫を、どうでしょう、人もあろうに、法然上人の弟子の端から選り出して、それへ、くれるというわけなんです」

「その弟子とは」

「綽空というんです。