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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
だが、心のうちでは、念仏を思わないものはなかった。声に出せないので、胸のうちでとなえていた。
逢坂山の関へかかると、追立の役人たちは、役目をすまして、引返した。都からついて来た多くの人々も、思い思い別れの言葉を残して戻ってゆく。
大津へ着く。――船は帆を寝せて一行を待っていた。
性善坊も、民部も、すべての側近者もまた、いよいよここで師を捨てて帰らなければならなかった。
だが、太夫房覚明だけは、どこまでも師の善信に附随してゆきたいと、役人たちへ言い張って、とうとう願いを通してしまった。
「生信房は、どうしたろう」
彼は、初めから、師の給仕人として、お供をゆるされていたはずなのに、その姿が見あたらないので、人々は、いぶかっていた。
領送使の侍たちは、
「帆をあげい」猶予をゆるさなかった。
「さらば――さらば――」呼び交わす船と陸との間は、見るまに波の距離がひろがってゆく。
――すると、笈を背にして旅支度をした生信房が、息をきって後から追いついてきた。彼は、後に残った裏方の玉日をなぐさめていたために、輿の列におくれたのであった。
「待ってくれっ、オオウイ、その船待ってくれっ」