Japanische Klassiker mit Furigana
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しんらん
親鸞
吉川 英治
Lesen Sie 親鸞 (しんらん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 566.138 Zeichen · 1127 Bildschirme
九十九夜
一
九十九夜
一
魔の荒して行った伽藍のひろい闇を、その後の惨たる泥足の跡を、冷たい風がふきぬけていた。
尋有はいつまでもからだの顫えがとまらなかった。脚ぶしをがくがくさせて、廻廊の扉口から大床のうちを覗いた。
一点の灯しもない。いるのかいないのか範宴のすがたも見えない暗さである。尋有は這うように進んで行った。――と、賊が捨てて行った経巻が白蛇のように解けて風にうごいている。その側に、坐っている者の影が見えた。
「兄君ッ……」つき上げて出た声だった。範宴のほのかに白い面がじっと自分のほうへ向いたことがわかると、尋有は跳びついて兄の膝にしがみついてしまった。
「おっ! ……」愕とした兄の手が尋有の背をつよくかかえた。かかえる手もかかえられる手も氷のようだった。ただ、範宴の膝をとおす弟の涙ばかりが熱湯のようにあつい。そして、範宴は弟が何のために山へ来たかを、また尋有は兄が自分の姿をどう心の裡で見ているかを、何もいわないうちに分ってしまったような気がするのであった。兄を責めるとか諫めるとかいうようなことはみじんも忘れ果てて、ただ、肉親の情涙の中に泣き濡れていることだけで満足を感じてしまった。