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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

人間として孤高のみが高いか。

内蔵助には、久しい疑問だった。いや悩みだった。

彼の、昼行燈的な憂欝は、人間が犬以下におかれた制度の発令以来、もう十数年、今日まで、習性みたいになって来たものである。

(いやいや、人にもなり、犬にもなり、時に応じて、ぼんやり歩こう。――古人、誰やらのいうた通り、「我れ世々の道にたがいなし」――これが世の道、這ッて歩けという令ならば這ッても歩いて行ったがよい)

彼の心の帰結は、そこに落着いた。

だから、藩中の一部にも、時の悪政や幕府批判は、常に、ひそひそ語られていたが、昼行燈は、いつも居眠っていた。田舎家老は、このくらいな燈芯が、ほどよいところ――と、している風に。

だが、その燈芯は、掻き立てられた。

彼の居眠りは、この春の、江戸早駕籠の運んできた悲報に、どやしつけられた。

内蔵助は、いやでも、その信条とする「世の道にたがいなし」から、たがわねばならなくなった――と、自分に宣告した。

主人内匠頭が、一挙に、その埓外へ、飛び出してしまったからである。そして、その行為は、ひとり内匠頭一人の行為としてではなく、赤穂全藩の者――その抱えている妻女老幼にいたるまでの、総ての人間を一束にした者の行為として、断絶、離散という生活の剥奪に見舞われてしまったのだ。