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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

かえって吉良家譜代の臣に、逃げかくれたのが多かった。わけて、禄高の多い老臣ほど、滑稽なくらい、恥も外聞もなく、隠れこんだ。

高度の破壊力は、常に一瞬のものである。彼方此方の修羅場に起っていた刃音や呻きや矢弦のひびきも、次第に減って来た。そして今はただ口々に、

『どこだ?』

『居ないか――』

『そこにも』

『居らんぞっ』

云い交しつつ、昂奮しきった眼が――鼻が――脣が――全身を神経にして、吉良上野介の居所をさがしにかかっているのだった。

戦った、存分にやった、そして勝った。けれど、まだ最後の重大な目的は、赤穂方に凱歌をゆるさないのであった。

もう町には一番鶏の声もする。暁は来ているのだ。――だのに、ここまでに至りながら、肝腎かなめな上野介のすがたが見当らないとは!

『ちぇっ……逃げられたか』

早くも地だんだを踏んで口惜しがる者がある。嘆声をあげて、

『残念……』

と、眦に血のような涙をうるませて、なお、うろうろ闇を嗅いで行く者もある。

『なんじゃ、落胆するのはまだ早い』

こう叱っている老人も――然し、自信のない顔つきなのである。

一間一間、丹念に、

『えいっ』

『えやあっ』