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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『……ウム、そうか』

と、伯耆守から申達した老中の報告を聞いて、暫く、感動の中に脣をむすんでいたという。

届け出では、次々に、政庁に集まって来た。寺社奉行の手からは、泉岳寺の和尚の訴えが入るし、吉良家からも、上杉家からも、町奉行からも、各※(二の字点、1-2-22)の立場から上聞を求めて来る。

吉良家へは、実際の検分に、すぐお目附達が急行してゆく。また、伯耆守は、幕廷の意嚮をうけて、間もなく自邸に引っ返した。

(浪士一同の処分は追っての沙汰とし、当分のあいだ、四藩へ分けてお預けの事)

と決まった。

泉岳寺へも、すぐ幕命が下って、

(内蔵助以下一同、宵のうちに、寺中を引払い、大目附伯耆守の宅に罷越し、静かに、お沙汰を受けらるるよう)

と云う指図である。

――その夕方から雨になった。雪の後を小雨がそぼそぼ降って、道は泥田のようだった。

夜になると、いっそう「上杉勢出動」が真しやかに伝えられ、人の心には、恟々としたものがあった。――折からの雨夜でもあり、それを信じない人々の間にも、

(もしや、こんな夜に?)

と云う不安は、皆無でなかったのである。

降り流す夜

肥後の細川家、伊予の松平家、長門の毛利家、三河の水野家。