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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

町は、その頃と、ちっとも変りがない……。

その十年一日のような故郷を、主家の激変に遭って今、ここを早駕で通る息子があろうとは、恐らく、生家に余生を送って居られる父も知るまい。母上も、御存じあるまい。

そんな事を、混沌と、眩いの頭で描いている間に、小溝に沿った粗土の土塀が、駕籠の外に、ちらと見えた。

(わが家だ!)

彼は、垂れを刎ねあげて、思わず外へ首をのばした。

茶褐色の塀が、眼の前を惜しく流れてゆくと、すぐ、表門が、顔の前へあらわれた。

その門前には、造花の蓮華だの、白張の提灯だのが出ていて、小紋の短か羽織を着た田舎人だの、編笠をかぶった紋服の人々だのが、大勢、陽溜りの往来に佇立んでいた。

『やっ? ……わしの家に』

ぷうんと、香華のにおいが、三平の顔をかすめてくる。

白無垢を着た人々の泣いてる姿が、暗い門の陰に、ちらと見えた。葬式の輿をささえた人足たちが、ちょうど、それを今、担い出そうとしているところだった。

『早駕が通る』

『あぶない』

会葬者が、制し合って、道を避けた。すると、僧のうしろで、涙を拭いている白無垢姿の若い娘が、

『あれっ――兄さん! ……』