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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

皇土の畏れ

九郎兵衛は、至極とうなずいて、

『いずれも、鎮まれい。お家の重大事を、私憤とおまちがい召さるまいぞ。私議、我執は慎まれたい。かかる際には、一藩一体となり、挙止もの静かなるこそ他そ目にも見事と申すもの。各気儘の紛論は、主君のお在さぬが為に、はやあのざまと他藩に嗤われもしよう。……ともあれ、今宵は火之見、御蔵方、それ以外の者は、すべていったん御帰宅のことじゃ。追って、二度目の総登城の布令が参るまで。――その日には、万事、御評議申そうで』

と云い渡した。

立ち渋っている態を見て、

『どれ』

九郎兵衛が立ち上ると、広間の彼方此方でも、思い思いに立つ者があった。内蔵助は、次部屋で吉田忠左衛門と立ち話をしていたが、忠左衛門は、城に泊って、火の元や、夜警の任にあたるというので、玄関まで歩きながら話を続けて別れた。

大手を出ると、星は美しかった。

皇土の畏れ

濠端から、家路へと散らかってゆく藩士たちの姿を見ると、内蔵助は、その一つ一つの影には、なお幾人もの家族や縁類や、養う家の子があることを考えて、胸が痛くなった。

(あの殿が……。あの温厚な御気性に……魔がさしたとでもいうものか……)