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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

憤然と九郎兵衛は突っ立った。何か、内蔵助へ挨拶をしたが、舌がもつれていて、意味がとおらなかった。

『御免っ』

と、続いて、外村源左衛門が立つ。玉虫七郎右衛門が立つ。

立ちよくなったように、以後の者も、続々、室外へ出て行くのである。清々しい空席が見るまに殖えた。半分以上の者が去ったが、一本の歯が抜けたようにも惜しまれなかった。

『風通しがよくなりましたなあ』

吉田忠左衛門が、内蔵助のそばで大きな前歯をむいて笑った。

(――もう立つ者はないか)

猶予を置くように内蔵助は他所を向いていた。みっしりと、何か凝結した感じが後に残った人達だった。

内蔵助は、後の者に、

『暮れてきた、燭台をもらおうか』

と云った。

その燭台が来るまでの間に、内蔵助は初めて、本心の一端を一同へうちあけた。――ここでは死ぬまいと云う事だった。

すでに、誓紙の上で誓った者には、改めていう迄もないが、篩にかけて残った者へは、今始めて囁く大事なのである。

(ここでは、死ぬまい)――ということ。

その無言の意味が、誰の胸へもすぐに来た。遽に紅い血のさした顔が、唾をのんで、内蔵助の面を見た。

『――が、飽まで、われ等の力の及ぶかぎりは、たとえ、千石であろうと、大学様に御家督下し賜わるよう、公儀へお縋りすることは当然。