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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
老人にも、どうか御案じなく、先ず暫く、見ていて下さい』
『それ聞いて、安心した。だが、なんぞよい機会でも心当りがあるか』
『さ。それがです……』
『あるぞ、安兵衛殿』
無人は片膝をすすめて、
『吉良の邸がの、お替地を命じられたが、知っておるか』
『えッ、呉服橋から他へ移りますので』
『これは、確かなすじから聞いたことだ。本所松坂町の旗本松平登之助の屋敷跡へ引移ることに極ったと申す。こんな折が又とあろうか。――その途中を――いやでも上野介が邸外へ出ねばならぬその千載一遇の機会を――』
『無人殿、それは、間違いのない事ですか』
『日まで聞いた。――松平家へ出入の者から聞いたのじゃ。吉良家の引移りは八月の二十日迄と申す』
『ありがとう存じます』
墓地の雑草へ安兵衛は手をつかえた。何か、彼の満身が血で膨れた。無人は、自分たちの旺んだった時代の気骨を、そのまま持つ若者を見いだしていることが欣しいのであった。
『やれ。やろうとして、やれぬことがあるか。一夫奮い起てば万夫を起たしむ。江戸に何人の同志がおろうと、やるのは、貴公、奥田、高田郡兵衛、こう三名のほかにはない』
『何かと忝のうござります』