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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『これ、そこの職人、おまえの鑿は、ぞんざいで不可ぬ。数寄屋普請をしたことがないのか、面皮の柱に、そんな安普請のような雑な仕事をしてくれては困る』

棟梁が、駈けて来て、

『どうも、相済みません。――やい、汝はほかの仕事をしろ』

『棟梁』

『へい』

『やかましく叱言を云ってくれ』

『ずいぶん気をつけて居るつもりですが、ちょっと、手前が眼を離すとこれなんで』

『日傭は、いくらかかっても関わぬのだ、折角、悠々とこれからの生涯を楽しむつもりで建てるのだからな』

『御もっともでございます』

『材木屋から、天井板は届いたか』

『へい、着いております、御覧に入れましょう、旦那、これでございますが』

『なんじゃ、これはただの杉柾ではないか』

『柾も、これくらいな板は、少のうございますぜ』

『長押、柱、ほかの木口に較べて、すこし、見落がするの、十畳の間には、神代杉を貼ってもらおう』

『神代杉を、……へ、左様ですか』

棟梁は、内蔵助の顔を見入って云った。いくら普請は子孫までのものにせよ、すこし勿体なくはないかと、始終尺金を持っている商売人でも思うものらしい。

『そうだ、十畳を神代杉にする、そうなると又、四畳半が、赤杉の並物ではうつらぬ故、吉野杉の飛切りで貼ってくれい。