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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

客に見せて、金を惜しんだように思われぬようにな』

棟梁は、こういう見栄坊な普請主が、結句、お花客にはなるので、云われる通りに、すぐ材木屋の手代をよんで板を返した。

壁もやかましい、庭石も今、紀州から来ているが、半分は気に入らぬという。運賃を損をしてもよいから、もっとよい石を探せといわれているのである。どれほど、金があるのだろうか。赤穂城を明け渡す折に、家老ひとりで、一万両をよそへ隠したという世間の風評もあるから、思いきった普請をして、後は、何といわれようが、後生安楽にきめこむつもりだろうと、これは、大工の下職や左官などが、仕事場から帰り途での噂であった。

『そうかなあ、俺あ、そう思わねえが』

と、左官手伝いの、辰造が云った。

大工の留吉が、

『じゃあ、何が、どうだって云うんだ』

『あの池田久右衛門ていうのか――赤穂の家老は、きっと、仇討をやる肚だろうと、おれは見ているんだ』

『えらそうに云うな。仇討をするほどな人間が、あんな普請をするわけはねえ』

『そこが、反間苦肉の計略だ』

『計略なら計略らしい普請をしそうなものじゃねえか。何も、あんな念入りに、やかましい事をいったり、無駄金をつかうことはない』