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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『…………』
答えようともしない、作兵衛は冷笑していた。嘯いて、大地へあぐらをかいているのだ。
『云わんな』
幸右衛門が、足をあげて、その横顔を蹴ろうとすると、
『よせ、むだな話だ』
又之丞は、制めた。
『吉良か、千坂兵部かにきまっている。疑心暗鬼を見るとはこの事、おかしい位なものだ。己れの胸に責められる為に、吾々が、何か為りはしないかと、御苦労にも、遙々探りに来たのだろう』
若いが又之丞は、思慮に富んでいた。浪人後は、内蔵助と多く起居を共にしていた感化もある。内蔵助が、何を躊躇っているか、何を危惧しているか、最もよく知っている者の一人だった。
『ここにある、十八尺とは、誰の仮名か知らんが、大石殿の後を尾行て、赤穂まで下ったとみえる。こやつも、閑人とみえ、むだな事を為ているものだ、大夫は、赤穂の浜方の者へ貸金の残余を取り立てに参られたのだ。まさか、それだけでも参られぬ故に、この三月十四日は先君の一周忌にあたる故、その法会をも営みがてら行かれたのじゃ。それを……あははは……尾行て行った馬鹿者があるのだから、世の中は、忙しいようで、無駄飯食いも相当にあると見える』