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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

又之丞が、何でそんな事を話しかけているか、幸右衛門にもわかった。

『だが、大夫の普請場へ、身姿を変えて、忍びこんでいるなどとは、こちらは、痛くも痒くもないにせよ、不快な事だ、こいつを、生かしては置けぬぞ』

『そういうな、何を、吉良へ告げようと、そんな事は、身にも皮にも障る話じゃない。ただ、この後、二度とこの附近にうろついて居ると承知せぬぞ、どうだ、左官屋』

『…………』

作兵衛は、俯向いてしまった。

『それを、解いてやる』

『解いてやるのか』

『そうだ……。然し、武士の礼儀だ、一応は、御姓名を伺っておこう。何といわるるか』

『――それだけは、宥してくれい』

と、作兵衛は、呻くように云った。幸右衛門は、むッとして、

『名は宥せ、生命も宥せは贅沢だ。甘くすると、つけ上りおる』

又之丞は、飽くまで、柔和に、

『いやそれも嫌なら訊ねまい、しかし左官屋殿、一体貴公達は、雲を掴むような疑心を抱いて、何名、この上方へ来ているのか』

『…………』

『千坂兵部殿のさしずだろう』

『……潮田氏』

と、作兵衛は初めて口を開いた。

『断じて、申すまいと思ったが、貴公の寛度に服して云う。推察の通り、拙者は、米沢の御家老千坂殿から頼まれたに違いない。