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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

又、日光御社参の砌りにも、奉行の大名方は、吉良の為に、何れほど泣く目を見たか知れぬという。――と聞けば取るにも足らぬ俗人じゃ。吉良の、四位の少将のと、人らしく思えばこそ腹が立つ。虫螻と思うているのじゃ。……呉々も、案じぬがよい。内匠頭とて、浅野又右衛門長勝が末、赤穂の城には、まだまだ、多くの愛すべき家来共も居るに、なんで、高家の老ぼれと、それとを、取り替えようぞ。わかって居る、もう、云うな』

『安心いたしました……。何も、何も申しませぬ』

『不吉だぞ』

源五右衛門と、与五郎は、あわてて、顔を横にそむけた。不覚にも、つい、こぼれてしまった涙の痕を、手で拭き消した。

表方から、

『お時刻』

と、告げる。

内匠頭は、湯浴みをして、式服を着けた。刃金を鎧う気持であった。自分の心が危ういのだ。

高家の達しで、式服は長裃と定めていた。すでに、それを身に着けてからである。老臣のうちで、疑う者があって云った。

『晴れの大礼に、長裃の御着用は、心得ませぬ。吉良どのの為され方、事毎に、不審ばかり。念のために、途中だけ長く遊ばされて、べつに、大紋御烏帽子の御用意もあっていかがかと存じまする』