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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

吉良家の塀が高く仰がれる。大きな椎の木が約束の目じるしだという。

右衛門七は、暫く佇立んでいた。

この吉良家の内の大工図面――もしそれが易々と手に入ったら、今夜の米屋五兵衛での同志の寄合で、何んなに一同がはしゃぐだろう。手を打って喜ぶだろう。

右衛門七は、その人々のかがやく顔つきを想像して、胸が高く鳴った。――首尾よく大工図面が、お粂の手からこの塀を越して落ちてくるようにと祈らずに居られない。

わん! わわわんっ!

突然、彼の蝙蝠羽織を目がけて、二三匹の野良犬が、吠えかかった。

右衛門七が、恟っとしながら、

『叱っ』

拳を振り上げていると、彼方の暗がりで、与五郎が脣を鳴らして犬を呼んだ。犬は、彼の手から抛られた餌へ向って、尾を振って集まってしまう。

いつ迄も、同じところに佇立んでいるのは、わざと人目の怪しみを求めるようなもの。右衛門七は、行きつ戻りつ、その辺を歩き出した。けれど、今か今かと待っているお粂からの礫は、いつまでも音沙汰がないのであった。

布陣布石

或る日を目がけての綿密な工作と、その場合に遺漏のない準備とが、江戸表へ潜伏した赤穂旧藩士たちの隠れ家に於て、目に見えない程ずつ徐々に進んでいた。