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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

春満と会ってからまだ二度目か三度目であった。何の話からであったか、頻りと、茶道の話が出て、吉良家の事を、ちらと洩らした。

(自分も、大炊御門家の手づるから、上野介殿の御子息へ、二度ほど、国学を講義しにまいったことがある)

というような事を云う。

安兵衛は、顔の血をしずめて、

(得たり!)

と心のうちで思った。

それからは春満との交際を、一つの心がけとして三十間堀の彼の家をよく訪れた。

その間に――

安兵衛の手には、もう一つ吉事が落ちて来た。かねて手を廻しておいた物が首尾よく手に入ったのである。それは今、上野介の住んでいる松坂町の屋敷は、彼の移る前には、旗本の松平登之助が住んでいたので、前借者の松平家のほうへ密かな運動を試みて、屋敷の絵図面を手に入れたのである。

それは殆ど完全に近いものであった。然し、吉良方でも抜かりなく、重要な箇所は、その後殆ど改築しているし、建て増しもだいぶしているという噂であると――それ有るが為にかえって誤るものではないかという同志の説があった。

『成程――』

安兵衛も固執しなかった。

そのうちに、図面のほうでは、磯貝十郎左が、これこそ、現在の吉良邸の図に相違ないものを一帖手に入れて来て、