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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『これだ。――これですっ』

初陣の若者が大将の首でも獲ったように、雀躍りして持ち込んで来た物がある。

『何うして、手に入れたか』

人々に、その大きな功の程を称えられて、奇蹟のように問われると、

『いや、べつに……』

謙遜ではないのだ。十郎左は顔を紅らめて、何も云わず、姿をかくしてしまった。

いつぞや、米屋五兵衛の蔵二階へ集まった者だけが、仄かにその筋道を知っていた。吉良家の奥づかえをしているおつやと十郎左との微かな秘密を。――

『聞かないでやれよ』

と、小豆屋善兵衛の神崎与五郎が云って笑った。

矢頭右衛門七が、お粂の恋をうけて、その一心で持ち出させた板絵図と、十郎左の齎したそれとを綜合して見ると、もう吉良邸の坪、間取、長屋、その他の位置は、内部に入って見るように明かに察しられた。

『よしっ――この方は整った』

一方。

吉良の邸の外部――道幅、溝、隣家との関係、そのほか両国附近の広場、寺院などの測量にあたっていた吉田忠左衛門からも、

『――万一、上杉家の人数くり出しの節。――一党引揚げの場所。――その他の調べ、こちらに於ては手抜かり無之』

と、内蔵助の手許へ通知があった。