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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

赤穂早打帳

呉越同室

とを、一瞬のまに、頭のすみで描いていた。

梶川与三兵衛は、それでもまだ、手を弛めずに、

『あなた様こそ、刀をお放しなさい。刀をっ』

汗になって、呶鳴り続けていた。

時刻は巳の刻過ぎであった。

今の時間でいうと、午前十一時頃の、春は爛漫と天地に誇っていて、微風の生暖かく吹いている日であった。

赤穂早打帳

呉越同室

黒い素袍の肩から背中へかけて、斜に口を開いていた。そこから迸る血には、痛いとも斬られたとも、何の感じもないのである。かえって、振向いた刹那、烏帽子の金輪にガキッとこたえたに過ぎない太刀の力と、眸のそばまで来た光に、上野介は喪神してしまって居た。

もう自分の頭蓋骨が、二つに割られてしまったものと思い込んだように、

『うッ……う、う、う』

顛動していたが、両手で顔を掩って、起き上ると、

『キッ、斬られたっ。――ら、らん心者でござるっ』

暗闇を、躓くように、

『――お出会いくださいっ。内匠頭が――内匠頭がっ――』

上ずった声を額からあげて、大廊下を、桜の間の方へと、転んでいた。

鶏の足痕みたいに斑々と、血が零れて行く。――右往左往する人々が、それを踏みつけるので殿中は赤く汚れた。