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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『お気づきの儀もござれば、どうぞ遠慮のう仰せ下され。――御老人』

『余の儀じゃおざらぬが、万一、吾々どもが事を挙ぐる未然に、公儀のお役人方の耳に入って、一味のうち誰人かが、御役宅へ召呼ばれるような事の起った節には、われ等、如何ようの態度に出るべきものでござろうか。――近頃ではもっぱら、江戸中に噂もある折、そういう突然の支障がないとも云えませぬでな』

内蔵助は、膝を打って、

『一失、一失。――それを書き落したは千慮の一失でござった。さすがは御老人、実にもようこそ』

と、謝した。

問題は重大である。内蔵助はやや黙考していたが、

『万々一、そうした事の起った場合は、一同、静粛に御吟味を願い出で、赤穂引渡し以後の始末、われ等の衷心、ただ真直に申し出るほかはござるまい』

忠左衛門も、原惣右衛門も、

『然るべしと思います』

と、同意を添える。

一同もそれに従う。

黄昏れにかけて、空は掻き曇って来た。炭火を焚きこめても、寒さは身にしみるのである。

『では、これくらいで』

『余事は又』

『もう残るところもありますまい』

酒を呼んで、わざと膝を崩し初める。頼母子講の事などを、雑談のあいだにわざとして、やがて茶漬を食べ、思い思いに散じて去る。