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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

そこには、典医、小姓頭、奥取次、そのほかの者が宿直していて、何か、ふた言三言、聞いていたと思うと、

『げっ、ほ、ほんとかっ』

絶叫に近い驚き方で、一人の者が云った。

『素破っ』

と、すべての者が起ったらしい。

同時に、

『吉良殿へ、赤穂浪人が、乱入したと聞ゆるぞ』

廊下へ出て、他の部屋へ、呶鳴った者がある。

弾正大弼は、がばっと、衾を刎ねて、

『な、なにっ?』

蒼白な顔を上げていた。

――その顔の前へ、奥取次の岩井五郎左衛門が、襖を開けて、平伏していた。

『お眼ざめにござりますか』

『五郎左、騒がしいが、何じゃ……何事じゃ』

『お驚き遊ばしますな』

念を押しておいて、五郎左は、わざと静かに云った。

『ただ今、吉良様のお出入町人、本所の豆腐屋儀助という者が御門前へ馳せつけ、今暁、赤穂浪人の群が一挙に、松坂町のお屋敷へ押しこみ、狼藉中との報らせでございまする』

『ウウム……』

弾正大弼は、血の色を失った脣をかみしめて、じっと燭台の白いまたたきを見つめていた。

『……今か。……それは、たった今か』

『詳しい事はまだ分りませぬが、襲せて来た時刻は、つい今し方との事で、仔細は、木村丈八が見届けておるとの由にございまするが……』