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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
たとえ、太守のおことばがあろうとも、兵器をたずさえて動くからには、兵部や他の重臣たちの同意ないうちに、猥りに、立ち噪ぐことは相成らぬ』
彼の正しい叱に、侍たちは門内へ退いた。なお何かためらっている者たちへは、
『確と、云い渡しておくぞ。――無断、吉良様のお邸へ馳せ参った者は、断じて厳罰に処すという事を』
云いすてて、手綱を丈八に渡し、藩士たちのあいだを押しわけて、玄関へかかって行った。
兵部が見えたという声は、すぐ、太守の耳にもひびいていた。螺鈿の鞍を置いた駒は、もうそこへ着いていたが、弾正大弼は、長刀の石突きを敷台に突いて、化石したように、じっと立って、彼をそこに待っていた。
『オッ……爺か』
『殿』
主従二人は、そう云ったまま、やや暫く無言のうちに煮え返るような胸を抱いて、立ち竦んでいた。
前車の轍
『まず……』
兵部は、腰をかがめて、
『奥へ渡らせられませ。――奥へ渡らせられませ』
と、自分も、玄関の間へ上って、ぴたっと坐りこんだ。
『兵部、聞いたか』
『委細、木村丈八から』
『存じながら、余に向って、奥へもどれとは』
『お話がござります故』
『何事でも、今日までは、爺のいう事に従って来た。