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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

微酔の中で人々はそう思い合った。これは、土へそそがれた供養の酒であると改めて思う。

『和尚、和尚』

一同に囲まれていた長恩和尚が、

『はい』

呼ばれた方を振り向くと、紅々と照りかがやいている若者たちの顔の中から、堀部弥兵衛老人が、

『ひとつ、この後の馳走として、死期の引導を頼みまするぞ』

すると、和尚は、手を振って云った。

『いや、それは困りますな』

『なぜ、なぜ?』

『われら僧侶の者が、三十年四十年と、禅那の床に、苦行をするのも、自力聖道の教にすがって、禁慾と闘うのも、申さば、今の各※(二の字点、1-2-22)のような心境に立ち至りたいことが目標なのでござる。然るに、生涯修行いたしても、なかなかそこに迄へは行き着き難い。何でその愚僧共が、あなた方に引導など授けられましょうや。かえって、われわれ共こそ、ちと、各※(二の字点、1-2-22)方の心境に学びたいくらいなものです』

『はははは、それでは、かような武士共は、独りで死んで、独りで引導をわたすほかはありませんな』

『いやもう、先程も、どなたかが、土中の白骨と仰せられた通り、引導は御自身で、もう疾くにおすみでございましょうが』