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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

――例えば、内蔵助殿のような父と子も、叔父と甥も、多年の友も……』

皆まで聞かずに、一同は頷いたり、叫んだりして、雨に顔を打たれながら、眼をしばたたいた。

『わかった! そういう思し召か』

『いくらでも待とう。こうして待っている一刻一刻が彼の衆の別れを惜しむ為めとならば――なあに雨ぐらい、寒さぐらい――何でもない』

だが――十二刻に近づくと、細川家の家老三宅藤兵衛と用人の鎌田軍之介とが、邸内へ呼び込まれた。

(愈――)

そう感じると、昼間から雨や寒気に曝されていた人々も、

(もう彼の衆も、永劫に、骨肉とも友達とも、生き別れとなるのか)

思い遣って、かえって胸の傷む心地がしていた。

細川家へ預けられた面々は、内蔵助以下、吉田忠左衛門、原、間、片岡、小野寺、堀部老人などの十七名で、その中に主税は交じっていなかった。

主税の名は、松平家のお預人の中に記されてあった。

で――立ち際に内蔵助は、物蔭へ、主税を呼んで、そっと云った。

『主税、今生のわかれだぞよ』

『はい、お父上のお顔を見るのも、今が最後と存じまする』

『覚えて居ろうの。常々、父が申し聞かせておいた事』

『忘れてはおりませぬ、御安心くだされませ』