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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『うむ。ウム……』

満足そうな父の眼であった。然し、母とはべつな大愛を持つこの父は、心の底にどんな熱涙を抑えてその席を起ったであろうか。――やがてそれから直ぐ後には、今別れたばかりの主税の顔を、烈しい雨の打ち叩く駕の裡でじっと瞼に描きながら、細川家へ向けて揺られていたのであった。

――松平家も、毛利家も、水野家の人数も、順々に浪士の身がらを受け取った。四家各※(二の字点、1-2-22)が、物々しい警固の列を雨のなかに立てた一刻ばかりというものは、伯耆守屋敷の門前は、まるで戦のような喧騒だった。わけても細川家の家士七百余人は、高張、箱提灯、騎馬、駕、足軽などの順に――他の三藩より一足先に、そこから行列を進め、五十四万石という大藩だけに、見る眼も物々しい限りだった。

上屋敷は高輪にある。御預人の十七名の駕と人数は、目黒門と呼ぶ口から邸内へ入った。時に、刻限はもう午前二時をだいぶ過ぎていた。

その途々、

『堀内伝右衛門と申す者が、人数の中におりまする。御浪士方の中で、何か御用のあるお方は、遠慮なくお呼びくだされたい。息苦しゅうて、駕の戸など明けたくは思されぬか。