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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
足軽頭の惣右は、汗の顔に、藁ごみを取ッつけて駈けてきた。村松、奥田の二老人は、早口に、
『原か。伝奏屋敷に参って、諸道具引揚げと、お役代りへの明渡の件、貴公に一任する、すぐ行けっ』
『承知しました』
惣右衛門は駈けて行った。大川に面している裏門をひらき、足軽、船手の人々を呼んで、十幾艘の小舟に、みな櫓を番えさせた。
『急げっ』
と、自分も跳び乗る。
千鳥の泳いでゆくように、舟の列は、道三橋下へと漕ぎ上ってゆく。
人夫、足軽、舟子まで狩り立てて、数百人が河岸から伝奏屋敷の門の中まで両側に立ち並ぶと、
『可し』
と、惣右衛門は、役宅の中から、三卿饗応の為に持ちこんであった浅野家の什器を、いわゆる手玉渡しに奥からどしどしと運びだした。
膳箱、陶器箱、褥、屏風、置物、衝立、幕、提灯、傘、飾り槍――あらゆる器物が手から手へと、激流のように吐かれて行く。
最後に、塵を掃き、水を打った。
竈の灰までを、きれいに掻いて、
『主人内匠頭に代って、饗応役に就かれる戸田能登守どの御家中に申し入れる。什器一切、引払いました故、お引継ねがいたい。後役の御就任、ご苦労に存じます』
迅かった。