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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

人足たちは、口を揃えて、

『うむ、此奴だよ、赤穂へ行く奴あ』

と云った。

無礼な視線を二人に浴びせかけて、群がっている雑多な人々は、ちょっと意味の酌めない方言で、口から口へ、何かガヤガヤと云い合っていたが、そのうちに河童のような頭をした素裸足の少年が、

『馬鹿野郎ッ』

と、罵って手に握っていた土を、三平の顔へ投げつけて、大人の後へ隠れた。

少年の罵倒が口火になって、それ迄は、単に、憎悪の眼で道の邪魔をしていただけの男女が、一斉に、

『赤穂武士じゃで、阿呆顔しとるわ』

『あの眼はなんじゃ、殿中で、人を斬りくさった、阿呆大名の家来めが』

『内匠頭やて、おおかた、気狂い筋であろう』

『ようも、上野介様を、斬りくさったの』

『御領主様の相手じゃ』

『相手の片割れじゃ』

『この街道通したら、他国に笑われるぞ』

『通すな、通すな』

『ここを通ろうと云うのが、押しが太い』

『頓馬ッ』

『撲ってしまえ』

八方から口汚い罵倒の暴風だった。百姓も云う、町人も喚く、女や洟垂らしの子供までが、面罵を浴びせかけて、云わして置けば限りがない。

その人々の興奮の程度に、三平も興奮していた。刀の柄をにぎって、怖い目をすえているので、藤左衛門は万一を惹き起してはならないと、その腕首を捕えて、自身を面罵の前へ押し向けていた。